映画『JACO』が描く、ジャコ・パストリアスの鮮烈な軌跡

December 12,2016 | Category :  Article | Tag :  Jaco Pastorius, Weather Report,

JACO_movie2

孤高のベーシストのドキュメンタリー映画が上映中

優れた表現者を形容する上で、「天才」という言葉は非常に頻繁に、場合によっては過剰に使用されてしまう傾向があるが、ジャコ・パストリアスほどその単語が相応しい人物は少ない。凄まじい天性の才能を持ち合わせ、人を惹きつける得体の知れない魅力を醸し、その才能に触れた者になんらかの影響を与え、子供のように素直。多くの人々にその才能を認めさせ、多くの人々に愛されたが、孤独な人生を歩み、輝かしい偉業を遺して最期は悲劇的な死を遂げた。「天才」という言葉は、まるでこの男のために存在するかのようである。

12月1日、新宿シネマカリテで行われたドキュメンタリー映画『JACO』のプレミア上映会に筆者は足を運んだ。メタリカのロバート・トゥルージロが制作総指揮者、スティーヴン・キジャックが監督を担当し、米国で2015年に上映されたこの作品は、12月3日から日本でも東京、大阪を含む4ヶ所で上映が開始している。

同作品は、自身の全てを音楽に捧げたジャコ・パストリアスというベーシストの短すぎる人生の紆余曲折を、彼の家族、友人知人、バンドメイト、そしてフリー (レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ジョニ・ミッチェル、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ブーツィー・コリンズ、カルロス・サンタナなど多数のミュージシャンたちの証言によって、美しく、辛辣に描いている。また、ジャコが生前に行った貴重なインタビュー映像や、彼の名演が味わえるコンサート映像に加え、彼の幼少期や青年期をとらえたホームビデオの映像を組み合わせ、この類まれな秀才の人となりを伝えている。

JACO_movie1
JACO_movie3
JACO_movie11

ウェザー・リポートのベーシストとして、ジャズ・フュージョン界を震撼させたジャコ

まだ名が売れる以前から、ジャコ・パストリアスは自己紹介をする際、自信満々に自身のことを「世界最高のベース・プレイヤー」と呼んだのだという。そして、「なら演奏してみろ」と試されると、ベースを取り出し、その場にいた全員の度肝を抜く演奏をしてみせたのだという。彼は他のベース奏者がいまだかつて果たしていない前代未聞のことをやると宣言し、本当にやってしまった。

1976年に発表した衝撃の処女作『Jaco Pastorius(邦題:ジャコ・パストリアスの肖像)』を経て、ジャコ・パストリアスはウェザー・リポートのメンバーとして、あるいはパット・メセニー、ジョニ・ミッチェル、ハービー・ハンコックらのセッション・ベーシストとして、数々の作品やステージ上でその個性溢れるベース・サウンドを披露した。彼の功績のひとつとしてよく語られているのが、ベースの固定観念を覆した彼の奏法。リズム楽器であるベースは、本来ドラムと二人三脚で楽曲のグルーヴを支える役目に徹することが通常だが、自由な発想の持ち主であったジャコはベースの弦を気の向くままに鳴らし、メロディーやハーモニクスを演奏し、ベースという楽器の可能性を拡大したのである。

JACO_movie9
JACO_movie12

映画が映し出す、ジャコ・パストリアスの実像

『JACO』はそういった、ミュージシャンとしてのジャコの栄光や功績をしっかり描きながら、人間としてのジャコの強さと弱さをむき出しにする。不安定で破滅的な人生を歩んだジャコであったが、同時に、彼は愛に溢れた人物であった。彼の指先からは、彼にしか奏でられない音色がいくつも生み出されたが、それは彼がとても複雑な心の持ち主であったこと、そして、そういった自身の心情、ひいては自身の人生そのものを弦の振動に変換することに、彼はとてつもなく長けていたことを示している。

ジャコ・パストリアスのファンであったら見に行くべきであることは言うまでもないが、彼のソロアルバムやウェザー・リポートの音楽をあまり聴いたことがない人でも、ましてや「フュージョン」という音楽ジャンルが何を指しているのかいまいちピンとこない人であっても、『JACO』を見る価値はある。音楽の価値を収益で判断する音楽ビジネスに隷属することを拒否し、自身が出せる最高の音を、最高の瞬間をただレコードに刻もうとベースを鳴らし続けた彼の物語は、彼のフレットレスの弦のように、きっとあなたの琴線を震わせるはずだから。

Words by Danny Masao Winston

MOVIE INFORMATION

『JACO [ジャコ]』

  • ドキュメンタリー/110分
  • 2015年/アメリカ ⓒ2015 SLANG EAST/WEST LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
劇場公開
  • 12月3日(土) ~
  • 劇場:新宿シネマカリテ(東京)、センチュリーシネマ(名古屋)、シネ・リーブル梅田(大阪)、KBCシネマ(福岡)
  • 配給:株式会社パルコ
スタッフ
  • 監督:ポール・マルシャン & スティーヴン・キジャック
  • 製作総指揮/プロデューサー/脚本:ロベルト・トゥルヒーヨ
  • 製作総指揮:ジョン・バトセック
  • 制作会社:Passion Pictures

More Info: Official Site

Share this Article
Facebookでシェア
Twitterでシェア
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>