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Masaharu Yoshioka

音楽評論家。ソウル、ブラック、ダンス・ミュージックを得意とする。ソウル・ミュージックの情報サイト、『ソウル・サーチン』ウェブ http://ameblo.jp/soulsearchin/ (なお現在ごらんのこのページはソウルサーチンブログのミラーサイトです)と同名イヴェントを運営。1975年以来、レコード、CDなどに添付されるライナーノーツは1,000枚以上執筆。その他、雑誌、新聞、テレビ、ラジオなどの番組出演も。著作に『ソウル・サーチン』、翻訳書に『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』、『マーヴィン・ゲイ物語引き裂かれたソウル』、『マイケル・ジャクソン観察日誌』、『モータウンわが愛と夢』など。Twitterは、http://twitter.com/soulsearcher216 フォローしてください。

TITLE: ハーレム・ナイツ8 (パート1)~オマー・エドワーズ、マイケルに捧げる

July 31, 2009

(ライヴ内容が出ます。これからごらんになる方はご自身のリスクでお読みください。ごらんになる予定のない方、見ようか見まいか迷ってられる方、見る予定で事前に内容を知ってもよい方はお読みください)

【ハーレム・ナイツ8 (パート1)~今年は盛りだくさん~】

マイケル。

毎年夏のこの時期、横浜ランドマーク・ホールで行われる『ハーレム・ナイツ』。いつもエキサイティングな企画でブラック・ミュージック好きを楽しませてくれるイヴェントだが、今年もいつになく盛りだくさんで楽しめた。今年は、レギュラーのタップ・ダンスのオマー・エドワーズを軸に、新人女性シンガー、キンバリー・ニコール、ヴェテラン・シンガー、ハーレムの重鎮ロン・グラントの渋い歌声、そして、コミカルなソウル・ショーを展開したソウルマンと名乗るシンガーがそれぞれの持ち味を出し、2時間半余(途中20分の休憩を含む)をたっぷりエンタテインした。この日も、超満員。オマー目当ての人はいるだろうが、その他のシンガーはそれほど有名ではないので、この『ハーレム・ナイツ』という企画に人が集まっているのだろう。これがまずすごい。

さて、暗転。舞台左手に白いスクリーンで四方を囲まれた公衆電話のボックスのようなハコが置かれている。暗くなると、向こう側からスポットがあたり、その中にいる背の高い男のシルエットがくっきりと映り出す。あの男がいきなり登場だ。オマー・A・エドワーズ。しかも、マイケル・ジャクソンの「ハートブレイク・ホテル」のような映し方。と思うと、いつのまにかバンドが「ハートブレイク・ホテル」を演奏し始めていた。ここでもいきなり、マイケル・ジャクソン・トリビュートだった。

ここ一ヶ月見たアーティストはみな全員マイケル・ジャクソンをやる。そうしたものを毎回見るにつれ、本当にマイケル・ジャクソンというアーティストの存在の大きさをひしひしと感じる。マイケルをやらないアーティストはいないのではないかとさえ思ってしまう。死去のニュースが伝わった6月26日(日本時間)のラファエル・サディークからアン・ヴォーグ、そして、書き忘れているが我らがソウル・サーチャーズもやっている、そして、マーチン、AI、ロバータ・フラック、そして、トク、オマー・エドワーズ。

シルエット。

この白いスクリーンには、今回会場で展示されている早乙女道春さんがギターの絵を描いた。電話ボックスの中で、オマーはタップを打つ。しばらくして、右側の壁を腕で打ち破り、次に左側の壁を打ち破る。果たして、最後は正面のスクリーンをぶち破ってオマーが観客の前に姿を現した。なんという登場の仕方か。思わずうなった。素晴らしい。1曲その場でインプロヴィゼーションでタップを打った後、ジョン・レジェンドの「グリーン・ライト」にあわせ踊る。そして、「僕の母は14歳まで靴が履けなかった。お母さんは、木の上に上り、鳥と仲良くしていた」と言って、靴を脱ぎ、裸足でタップを披露した。

その後最初のシンガー、キンバリー・ニコールが登場。彼女も間にマイケルの「アイ・キャント・ヘルプ・イット」を挟む。

休憩を挟んでの第二部もオマーから。「オージェイズ、テンプテーションズ、ジャクソン・ファイヴ…。こうしたアーティストに踊りを教えタップ・ダンサーがいます。モータウンにいたチョリー・アトキンスだ」と言って、テンプテーションズ風の振り付けを決めた。ソウル・ダンスとタップ・ダンスが見事に融合した瞬間だった。このあたりも、前年までにはなかった新しいアイデアと言っていいだろう。ここで流れた曲は、ジェームス&ボビー・ピュリファイの「アイム・ユア・パペット」。日本ではゴスペラーズの村上てつやさんが歌っていることでも知られる1曲。このレコードをかけながらまるで上から糸で操られるように踊った。

しかもこの後、オマーは観客みんなに4つの動きを教え、全員にタップ風ダンスをやらせる。タップでの「コール&レスポンス」だ。350人のタップ・ダンスは圧巻だった。(笑)今日以降いかれる方は簡単な動きをオマーが丁寧におしえてくれるので、ぜひお試しあれ。

ジェームス・ブラウンの「ファンキー・グッドタイム(ドゥイン・イット・トゥ・デス)」から「イッツ・ア・マンズ・マンズ・ワールド」になる頃、オマーはさらりと「ムーン・ウォーク」を挟み込んだ。曲が終わると、そこには1本のマイクスタンドに黒い帽子がさりげなくかけられている。マイクを摑んでオマーは宣言した、しかも日本語で!

「出会いもあれば、別れもある。人生は短い…。愛は永遠…」

そして流れ出てきた曲はマイケル・ジャクソンの「マン・イン・ザ・ミラー」。こんな演出があるだろうか。このシチュエーションにこのイントロが流れてきただけで号泣ものだ。オマーはスタンドの黒いハットに敬意を表わしながら、華麗なタップを踏んだ。まるで、マイケルがオマーに乗り移ったかのようだ。ほんの2分ほどのパフォーマンスだったが、この日僕は一番ここに感動した。(しかし、1本のマイクスタンドに黒い帽子、オマー、そしてマイケルのレコードだけで、ここまで感動がくるとは。だったら、大挙してニューヨークからやってきたバンドはどうなるんだって話しだが…。(苦笑) いや、みんなよかったですよ)

オマーが舞台袖にはけて、MCによって紹介されたのがハーレムの重鎮、ロン・グラント。いきなり客席の僕の横を通って登場したので、びっくりした。初めて見たが、実に渋いオールド・スクールのシンガーだった。なによりもよかったのが、マーヴィン・ゲイの「セイヴ・ザ・チルドレン」だ。スティーヴィー、ダニーとそのレパートリーから、僕や一緒に見に行った岡さんらと同時代的な匂いを感じる。

最後に登場したのが、ソウルマンと名乗る謎のアーティスト。これがめちゃくちゃおもしろかった。サム・ムーアとジェームス・ブラウンを足して2で割ったような、見せて楽しませる「一発芸」的なエンタテインメント。足の動きはジェームス・ブラウン、そして、ハイトーンの声はサム・ムーア。

それにしても、毎年、ハーレムからは無名ながら芸達者なアーティストがやってくる。ハーレムのアーティスト倉庫は人材の宝庫さながらだ。

(『ハーレム・ナイツ』リポート~つづく)

■ 関連リンク

ハーレムのアーティストを発掘し日本に送り出すもうひとりのハーレムの重鎮、トミー・トミタさんと松尾公子さんのブログ。『ハーレム・ナイツ』関連の記事も多数あります
http://tommyny.exblog.jp/11594899/

■ 横浜ランドマークタワー公式ページ内イヴェント詳細

横浜ランドマーク・ホールのハーレム・ナイツのサイト
http://harlemnights.jp/

ライヴは、2009年7月29日(水)から8月2日(日)まで毎日。詳細は下記ランドマーク・タワー・ウェッブへ

問い合わせ先 ランドマーク・ホール:TEL 045-222-5050 (月~金 10:00~17:00) ランドマークプラザ:TEL 045-222-5015 (月~日 11:00~20:00)
http://www.landyou.jp/event/hall/index.html

チケットは完売していますが、若干の立見席などが当日発売されます。 詳細はお問い合わせください。

■過去のハーレム・ナイツ関連記事

July 24, 2008
Harlem Nights Vol.7 Has Just Started
http://blog.soulsearchin.com/archives/002617.html
前回第7回ライヴ評。

July 26, 2007
“Harlem Nights Vol.6″ At Landmark Tower: “I Don’t Repeat” Says Omar
http://blog.soulsearchin.com/archives/001918.html
第6回ライヴ評

July 28, 2006
Harlem Nights Vol.5: Alyson Williams Sings Wide Variety Of Music, Omar Edwards Taps With New Idea
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200607/2006_07_28.html
第5回ライヴ評

July 29, 2006
Alyson Talks, Omar Talks: Harlem Nights
http://blog.soulsearchin.com/archives/001164.html

July 29, 2005
Harlem Nights: Omar Edwards, Barefoot Tap Dancer
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200507/2005_07_29.html
第4回ライヴ評

2004/07/31 (Sat)
Harlem Nights III: Bring Your Cake For Lonnie’s Birthday
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200407/diary20040731.html
第3回ライヴ評

■メンバー

オマー・A・エドワーズ (タップ) Omar A. Edwards (Tap Dance)
ロン・グラント(ヴォーカル)Ron Grant (Vocal)
キンバリー・ニコール(ヴォーカル) Kimberly Nicole (Vocal)
アーロン・スウィナトン(キーボード)Aaron Swinnerton (Keyboards)
ナザニエル・タウンスレイ・サード(ドラムス)Nathaniel Townsley III (Drums)
トニー・スティーブンソン(ベース)Tony Stevenson (Bass)
レジー・ハインズ(サックス)Reggie Hines (Sax)
コーリー・ヘンリー(ハモンドオルガン)Cory Henry (Organ)
ソウルマン (ヴォーカル) Soulman (Vocal)

■ セットリスト ハーレムナイツ8@ランドマーク・ホール
Setlist: Harlem Nights @ Landmark Hall, July 29,2009
[ ] denotes singers/performer
( ) denotes song’s original artists

1st set
show started 19:04
01. Obama Speech [Omar A Edwards] ↓
02. Heartbreak Hotel
03. Improvisation (A Cappella)
04. Green Light (John Legend)
05. Bollywood [Omar, barefoot tap dance] Omar left
06. Can’t Hide Love (Earth Wind & Fire) [Band]
07. All I Do (Stevie Wonder) [Kimberly Nichole]↓
08. Peace Of Mind
09. My Funny Valentine (Standard)
10. I Can’t Help It (Michael Jackson)
11. Tell Me Something Good (Rufus/Chaka Khan)
12. Crazy
show ended 19:57

2nd set
show started 20:22
01. The Street Of New York (Instrumental)(Alicia Keys) [Omar A Edwards] ↓
02. I’m Your Puppet (James & Bobby Purify)
>Tap lesson
03. Funky Good Time (Doin’ It To Death) (James Brown)
04. It’s A Man’s Man’s Man’s World (James Brown)
05. Man In The Mirror (Michael Jackson) Omar left
06. Thank You Lord [Ron Grant]↓
07. Amazing Grace (Traditional)
08. Save The Children (Marvin Gaye)
09. Love’s In Need Of Love Today (Stevie Wonder)
10. A Song For You (Leon Russell, Donny Hathaway version)
11. I Love You More Than You’ll Ever Know (Donny Hathaway)
12. Superwoman (Where Were You When I Needed You) (Stevie Wonder) Ron left
13. Soul Man (Sam & Dave) [Soulman] ↓
14. If You Don’t Know Me By Now (Harold Melvin & The Bluenotes)
15. James Brown Medley : Sex Machine / Cold Sweat Soulman left
>A riff of Banana Boat (Harry Belafonte)
16. Let’s Stay Together (Al Green) [Ron + Kimberly]
17. Superstition (Stevie Wonder) [Ron Grant]
Enc. Ain’t No Stoppin’ Us Now (McFadden & Whitehead) [All]
show ended 21:36

(2009年7月29日水曜、横浜ランドマーク・ホール=ハーレム・ナイツ8・ライヴ)
2009-83

TITLE: ロバータ・フラック・ライヴ~マイケル・ジャクソンに捧げる

July 31, 2009



【ロバータ・フラック~マイケル・ジャクソンに捧げる】

追悼。

マイケル・ジャクソンのショート・フィルム「バッド(Bad)」(1987年)の曲に入る前のシーン。マイケルは東部の学校での優秀な生徒ダリルを演じている。学期が終わり家に戻ると、そこは母子家庭なのか、母親がタイプライターに手書きの手紙を挟んでいる。文字がアップに映し出され、それを女性の声が読み上げる。「ダリル、お帰りなさい。私は仕事にでているわ。サンドウィッチが冷蔵庫にあります。7時に戻ります。ラヴ、ママ」 母性豊かなやさしい温かなナレーションだ。この声の主こそ、ロバータ・フラックだ。

ロバータの2007年4月、2008年3月に続くライヴ。ドラムス、ベース、キーボード、サックス、バック・ヴォーカルの5人にロバータ・フラックというバンド編成。冒頭いきなりマイケル・ジャクソンの作品3曲をメドレーで歌った。最初の2曲はバンドメンバーが、そして、「ユー・アー・ノット・アローン」から、ロバータがステージに上がってきた。最近の海外アーティストは誰もが必ずなにかしらのマイケル・トリビュートを行う。この日の観客は若干静か目だったが、ロバータはかなりノリノリの様子。

ロバータがステージに上がるとそれだけで、存在感のオーラが一挙に漂う。おそらく、ロバータ・クラスになると、その日のパフォーマンスの出来不出来などはほとんど関係なく、過去 30年なり40年の音楽家としての積み重ねがオーラとして毎晩ステージから客席に向かって飛び出していくのだろう。つまり存在感だ。彼女がステージに出て、声をだしただけで、涙が溢れるというファンの声も聞く。母性あふれる声、息子にサンドウィッチを作り置きして仕事にでかける母親のやさしさといったものが、声そのものに宿っているのだろう。だからそこに感動する。

ロバータは事前にセットリストを決めない。だから、ほぼその場の雰囲気で次に歌われる曲が決まる。そして観客とのコール&レスポンスを楽しむ。ミュージシャンも次の曲は、ロバータが歌いだし、あるいはピアノを弾き出してからわかる。サックスのアルチューロに「ワインライト」を吹かせている間、ロバータはピアノの上の楽譜をパラパラとめくり、次に何を歌おうか考えていた。そのライヴのスポンテニアス(自発的、即興的)度合いは、まさにジェームス・ブラウン以上のものかもしれない。

この日このセットで驚いたのは、「フィール・ライク・メイキング・ラヴ」が御終わるか終わらないかのところでいきなり、「ノー・ウーマン、ノー・クライ」をやりだしたところ。また、本編最後の「ラヴ・ミー・イン・ア・スペシャル・ウェイ」で、客席をぐるりと一周まわったかと思うとステージに戻り、「さあ、(アンコールを)選んで。『バック・トゥゲザー・アゲイン』か、『ザ・ファースト・タイム…』か、『クローサー・アイ・ゲット・トゥ・ユー』か…」 はっきりした返事が観客から来なかったので、ロバータは、スローの名曲「アイル・スタンド・バイ・ユー」を歌った。途中で彼女は言った。「世界は、本当に混乱してます。でも、音楽だけは人々をひとつにできるものです。他にそんなものはないでしょう!」(観客から拍手)

この日のパフォーマンスは彼女にとっては普通の標準的なライヴだろう。しかし、多くの客にこの日のパフォーマンスはワン&オンリーのものだったと感じさせてしまう。ロバータにはそんなマジックがある。70歳を超えて、この声、このパフォーマンス。それもマジックだ。

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