「音楽の可能性を広げたい」――アンビエントR&B界の新星、向井太一インタビュー

May 02,2016 | Category :  Interview | Tag :  向井太一,

向井太一

This Is Me: Taichi Mukai

気鋭シンガー 向井太一インタビュー

4月5日、代官山LOOPにて。おそらく、彼のライブを初めて見る人の多くが同じ感想を最初に抱くのだろう。一見、華奢でシャイそうなこの青年から、あれほど声量があって伸びがよく、心の芯まで揺さぶられる力強い声が発されるとは、ライブが始まるまで思わなかった。曲が始まると彼は目を閉じ、何かが憑依したかのように曲に入り込み、一字一句大事そうに歌い上げる。曲が終わるとスッと表情が和らぎ、素に戻る。会場に来ているお客さん(大半が女性)は息を呑んで、彼を見つめる(あるいは見惚れている)。

向井太一。福岡県出身のシンガーソングライターである。2010年に上京したあと、ジャズ/ファンク系のバンドでヴォーカルをしばらくやったあと、2013年よりソロ活動を開始。R&Bやポップ・ミュージックをベースにしてはいるものの、簡単にひとつのジャンルやスタイルでは形容できない音楽性を持ったアーティストである。

今年の3月30日には、自身で作詞作曲を行い完成させたデビューEP『POOL』をリリースしている。アンビエントで壮大な世界観に内省的な歌詞を組み合わせた、彼なりのフューチャーR&Bが6曲収録されている。音源では柔らかく、かつ芯があって豊かな彼の声が打ち込みのトラックの上を浮遊するが、この日のライブはピアニストとのアコースティック・セットであった。音数の少ない簡素なアレンジメントが楽曲のメロディー性をより強調しており、彼はひとつひとつの言葉を丁寧に届けるかのように歌っていた。

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向井太一が語る、自身の音楽性のルーツ

子供の頃から家ではブラック・ミュージックが流れていたと彼は語る。「親がずっとルーツレゲエを聴いていて。小学校ぐらいのときに兄の影響でヒップホップとかR&Bを聴くようになったんですけど、そのときからなんとなく常に歌ってましたね」。しかしシンガーになるという夢を子供の頃から抱いていたわけではないと言う。「いつも絵とか描いてたような内気な人でした。最初は絵の仕事とかつきたいと考えてて」

音楽を本格的に意識し出したのは、高校にあがるときであった。「特になりたいものがないなって気がついて、音楽にちょっと寄った学校に行ってみようって思ったんです。ボイトレとかも通いだして。オリジナルの曲を作っていたわけではなくて、当時はまだカバーをいろんなところで歌ってただけですね。でもステージに立って人前で歌うことの気持ちよさを知って、そのとき歌手になりたいって思いました」

高校卒業後、上京しバンド活動を経て、ソロに転身。ソングライティングなどをやり始めたのはまだ2年ほど前のことであり、今回のソロEPが自身で形にした最初の作品ということになる。まだ発展途上のアーティストだと言えるが、アーティストとしてどう自分が見られたいか、十分に意識しているようだ。「今まで影響を受けたアーティストには共通して、ビジュアルと音楽性両方にインパクトがあるんです。エイミー・ワインハウスとかFKAツイッグスとか、ウィークエンドとか。ビジュアルも合わせてプロモーションが面白いアーティストが好きですね」

その繊細そうな見た目と、力強い歌声というギャップを、向井太一は武器と考えている。「ソロで活動していく上ではギャップをどんどん広げていこうと考えてます。『POOL』では、音楽は人間くさい部分をどんどんさらけ出していったんですけど、ビジュアルは逆に無機質で、まったく表情を作らなかったりとか。人間っぽくない神秘性を感じるものにわざとしました」

4月30日に公開されたミュージック・ビデオ 「ZEN」

ソウル・ミュージックを基盤として、ジャンルレスに広がる向井太一の音楽

リスナーの心に訴えかけるように歌う向井太一。その特徴的な歌声のルーツにはソウル・ミュージックがある。「Motownとか歌謡曲とかを凄く聴いていた時期がありました。エタ・ジェームズとか、日本だと和田アキ子さんとか。シャウトっていうか、ああいうエモーショナルなヴォーカルにハマっていた時期があって」。とは言え、彼の音楽活動のスタンスにも言えることだが、ひとつのサウンドやジャンルに固執する姿勢はまったくなく、常にソウル・ミュージックのマナーに沿って歌おうとしているわけではない。「考えてやっているというよりは、その場のテンションとか空気、気分で歌い方を変えちゃう場合が多いですね」

そのときたまたま聴いていたもの、ハマっていたものを自由に吸収し、消化し、自身のフィルターを通して自分の言葉、そして音にする。そういった純粋なプロセスで彼は作品作りを行う。「今回、自分で作詞作曲をやることで本当に自分がやりたいジャンルであったり、伝えたい言葉がすごく明確になった気がしますね。それが一番の収穫です。ジャンルをあまり意識せずにそのときの感覚とか、ハマってる音を織り交ぜて。『POOL』は、自分はこういう人間だと解ってもらえるような、名刺として作ったつもりです」

基となるトラックを自身で打ち込み、それをトラックメイカーに渡して肉付け作業をしてもらう。そのトラックに常日頃から書き溜めている歌詞や、その場で浮かんだフレーズを組み合わせ、楽曲を形にしていく。「歌詞が浮かぶのは自分の感情の起伏が激しいときが多いですね。もともと内気だったんで、基本はそんなにポジティブでハッピーな人間ではないんですよ。だから人間の内面的なというか、ちょっとマイナスな面を歌詞で書くことが多くて。今回のEPでもそんな、人間の内側の生々しい部分が出せたかなって思います」

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向井太一 「分け隔てなく曲を作ることができて、歌えるアーティストになりたい」

不自然に英語を混ぜたりすることはなく、しっかりと日本語で伝えることに重きをおいている向井太一。作品作りにおいて、“言葉”は彼がとても大事にしていることである。「日本人が日本人の歌を聴く理由ってやっぱり詞が響くからだと思うんです。歌謡曲とかを聴いてると、詞の表現とか、言葉選びとか、日本語独自の比喩表現とかが面白くて。それはちゃんと背景があって生まれたものだと思うんですよ。それを凄く大事にしたいと思っています」

向井太一の音楽の根底にはソウル、R&B、エレクトロニック・ミュージックが存在するが、普段JポップやTop 40の洋楽しか聴いていないリスナー層にも受け入れられそうなポップ・センスを持ち合わせている。その事実が孕むポテンシャルを、彼は十二分に理解しているようだ。「僕のファンは、僕の音楽のようなジャンルを全然聴いたことがない人が多くて、それはやっぱり見た目とのギャップ性とか音楽以外でのプロモーションとかが活きてるのかなと思っていて。僕にしかできないことかなって思ってます。こういう音楽を聴いてもらうきっかけになれたら嬉しいですね」

「音楽の可能性を広げたい」とも、彼は語る。「特にブラックミュージックだと、あんまり動いてないというか、何年も前にやっていたことが繰り返されているという印象を受けるんですよ。それはもちろん素晴らしいアーティストがルーツにいるからこそなんだと思うんですけど、僕はR&B、ポップ、ロックとか、ジャンル関係無しに作りたいし、好きな音楽は変わっていくから常にそれに対応していきたい。分け隔てなく曲を作ることができて、歌えるアーティストになりたいと思ってます」

いつの時代も、伝統や格式に縛られることなく、気の赴くままに自由に創作活動をする人たちが最先端を牽引してきた。向井太一はまだ歩み始めたばかりのアーティストであるが、今後彼がどういった道を切り開き、その過程でどういった作品が生み出されていくのか、今から楽しみである。

Taichi Mukai Links: SITE / Twitter / Instagram

RELEASE INFORMATION

向井太一 1st EP 『POOL』
mukatai
  • 発売
  • illxxx Records
Tracklist
  1. 1. Wonderland
  2. 2. This is Me
  3. 3. Rescue Me
  4. 4. Cigar&Sugar
  5. 5. Pool
  6. 6. Rise

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8 thoughts on “「音楽の可能性を広げたい」――アンビエントR&B界の新星、向井太一インタビュー
  1. むかたい より:

    このこってゲイの子?

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