Academic Archive: Volume 1 | online exclusive | Wax Poetics Japan

online exclusive
Wax Poetics Japan

Academic Archive: Volume 1

By: Joe Allen // 12.03.05


ライフ・サックス・ダイ誌のビート・ディグングについての記事の中で、レコード・ハンティングについて語っているシュプリーム氏は「私はレコードの磁石みたいなもんだ。私が手に取ったレコードには必ずかっこいいビートが入っている」と言っている。サンプリングにはいろいろな方法があるので、それに似たようなことを言うプロデューサーはたくさんいる。私もそれに当てはまるが、私の場合それがレコードに限ったことではない。レコード収集のほかに、ヒップホップのカット・アンド・ミックスの精神に当てはまるもの、集めたい衝動に駆られるものはすべて集めてきた。それはロメア・ビアードゥンのコラージュ、ウォルター・ベンジャミンの文化論、イシュマエル・リードの「Mumbo Jumbo」、ナサニエル・マッキーの「Djbot Baghostus’s Run」にまで及ぶ。どれを見ても、ヒップホップの精神が当てはまる気がする。実はシュプリーム氏の発言を見たとき、ポール・オースターの推理小説「New York Trilogy」の1作目「City of Glass」を読んでいた。(図1参照)その小説はサンプリングとはほとんど関係ない。強いて関係がある点を挙げるなら、アイデンティティの不完全性、同じ出来事を違った視点から捉える心理だろう。しかしながら、その小説には注目すべきシーンがある。それは探偵クインがニューヨーク中を探し回って見つけたスティルマンという男と対面した時である。そのスティルマンという男はずっと本を書き続けていたらしく、小説の中ではこんなことを言っていた。 


私の作品は極めてシンプルだ。私がニューヨークに来たのはそこが最も寂しく、みすぼらしい場所だからである。崩壊と無秩序が交錯している。目で見て確認するしかない現実。壊れた人、壊れたもの、壊れた思想。街全体がポンコツ車のようだ。それが私の目的だった。道端は果てしない資料の源で、他愛のないものが無尽蔵に保管されている。毎日調査に値するものを拾ってまわった。集めたサンプルは何百にも及ぶ。一部が欠けたものから、バラバラのもの。一部がへこんでいるものから、ぺしゃんこのもの。粉々なものからひどく腐敗したものまで。(94) 注1。 

あれ? 作家がどのように資料を取り込んだりサンプリングしたりするか、ではなくてビート・ディギンやサンプリングについて話していたと思ったのだが。しかしこの発言を聞くと、そのプロセスには大いに共通点があるようだ。 

このコラムでは、ヒップホップのサンプリング文化とほかのアート、文学、学説との関係を考察していく。このような学術的な比較はヒップホップの真髄をもっと文化的、歴史的、芸術的な分野に押し広げることになる。モス・デフの「Ms. Fat Booty」を聴いて、たくさんの人がそのサンプリング・ソースであるアレサ・フランクリンの名曲「One Step Ahead」を探し出すように、このアカデミック・アーカイヴも、読者をいろいろな情報源へと導く手助けになればと考える。 


最初は、ロンドン出身のペインター、ライター、コンポーザーのトム・フィリップスの生涯をかけての作品「A Humument: A Treated Victorian Novel (1980, first edition; 1987, first revised edition; 1997, second revised edition)」(図2参照)である。この作品はウィリアム・バロウズの有名な編集技法からインスピレーションを受けたものである。しかし、フィリップス自身は、作品編集よりも、論理的な本をリメイクしたり、それをわかり易く文字に起こしていた。ある土曜の、朝の買い物で彼が見つけた「A Human Document」(W.H.マロック著、1892年発行)という本がある。注2。 

フィリップスは第2改正版で彼の技法についてこう語っている。「ちょっとした詩を1節入れるために、あとちょっとで必要ない箇所を削るとこだったよ。だけど言葉とイメージを入り組んだ中世の彩飾画のようにうまく繋ぎ合わることで良いものができるということはすぐにわかった」と。そして彼は削除するはずだった文章と絵を、368ページほとんどで、驚くほど綺麗でユニークな水彩画やグワッシュ画法で表現し直す。(図3参照) その結果、作品は詩、楽譜、パロディ、美の哲学、自伝、具体的文章、ロマンス、エロス、そしてマロックの原文を少し、という内容となった。フィリップによると「A Humument」はブリコラージュのいい例であり、75歳も離れた似ても似つかない2人(マロックとフィリップ)が、知らず知らずに共同作業をするという形をとっていた。フィリップスの文章テクニックは明らかにヒップホップのサンプリング方法と似ている部分がある。例えば、元ネタを利用、再構築し、切り刻み、新しく重ね、結果的に新しい作品を生み出すところなどである。 


フィリップスは作品をコンスタントに改訂し、短いものを10巻、また最終的にはすべて改定したものを第3版まで出している。改訂する時は、マロックの2版を見つける必要があった。彼が見つけたものは、ロッティ・イエーツという人が持っていたもので、アンダーラインが引いてある箇所を見ると、その人の人生が垣間見えるかのようだった。「何回ありきたりなビートやブレイクに戻って新たな可能性を見つけるという作業を続ければいいのだろうか」。(Q-Bertのミックス・テープ“Preschool Break Mix”より) 

2版と3版でフィリップスは第1版をより深く点検し直している。そこで彼は各ページが新たな可能性を秘めているということを再確認し、85ページなどについては20パターンの可能性を見つけ出した。「A Humument」の3版では、「自分の前の作品まで盛り込んでしまった」と言い、実際に自分の前の作品をサンプリングしている。例えば、105ページの壁に掛けてある絵は初版のページの断片からできている。自分の作品をサンプリングするのはなにもヒップホップのプロデューサーだけに限ったことではない。(ダイアモンドD:「I took a blues break and I broke it」) 

デジタル・サンプラーを使えば、曲、サンプル、ブレイクは簡単に作り変えることができる。フィリップスのコメントは、レコードや音の無尽蔵の可能性を再確認させる。ヒップホップのプロデューサーは様々なメディアを使ってきたが、メインはLPレコードである。ニューヨークにあるサウンド・ライブラリー・レコード・ストアのボブ・キャリガンは「ほとんどのビートやファンキーなループはすでに使われてきた」とビート・ディガーたちの本音を漏らした。しかし彼は「だからと言ってサンプルに困ることはない。どんなレコードでもサンプリングできるという境地に達しただけだ」とも語っている。有名なプロデューサーであるショウビズも、「世の中にはいろいろな音があり、未だに誰も使ってないレコードが眠っている」と言っている。(ソウルマンの「World of Beats Vol. 4a」参照)例えば、ソウルマンのミックス『Neva Stop Diggin’』ではスペイン語のレコードからブレイクやループを引っ張ってきている。DJプレミアは「アンダーグラウンドが生き残る」と付け加え、彼自身や他のアンダーグラウンド・アーティスト(ピープル・アンダー・ザ・ステアーズの『Question in the Form of an Answer』参照)は常に新しいサウンドが生まれるまで些細な音をサンプリング、カッティング、チョップし続けると宣言した。 

ジョー・アレンはニューヨーク州ポウキープシーにあるダッチェス・コミュニティー・カレッジの英語の助教授である。彼の主な研究内容は文化研究で、現代小説や音楽(特にヒップホップ)に焦点を当てている。最近では「He’s the DJ, I’m the Turntablist: The Progressive Art of Hip Hop DJs」という本を執筆した。また、近日中にガーランド出版から出るエッセー集「Black Orpheus」に彼の「The Operatic Incongruity of Nathaniel Mackey’s Djbot Baghostus’s Run」が掲載予定。
 
(注)1. Paul Auster, City of Glass (Penguin Books, © 1985). 
(注)2. This and subsequent Tom Phillips's quotes from A Humument: A Treated Victorian Novel [Third Edition] (Thames & Hudson, © 1997)
napster
レコード・CD通販ならサウンドファインダー
JET SET
warpweb
Wax Poetics Japan Mobile
Wax Poetics Japan Mail Magazine
Wax Poetics Japan No.08 P.E.