B4.Da.Ss

B4.DA.$$

Artist : Joey Bada$$  | Label : Cinematic Music  | Release Date : 2015/1/20

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90年代のヒップホップ、特に初頭から半ばごろまでをヒップホップの黄金期と捉えるファンも少なくない。筆者もそのうちのひとりである。その黄金のサウンドを現代に甦らせている若きヒップホップ集団、プロ・エラを率いる気鋭ラッパー、ジョーイ・バッドアスが、初の正規リリースとなるアルバム『B4.DA.$$』(ビフォー・ダ・マネー)をインディーズCinematic Music Groupから発売した。彼が広く認知されるきっかけとなったのが、2012年、まだ17歳であった頃に自主的に制作したミックステープ『1999』。サンプリング主体な90sマナーのトラックのチョイスと、年齢を思わせない説得力のあるラップで同世代はもちろん、今風のヒップホップを好ましく思っていない上の世代のヘッズまでをも虜にし、次世代の若きホープとして注目を集めた。そんな彼の待望の“デビュー”アルバムとなると、期待が募らない訳はない。
 
ほんの3年ほどの短いスパンで、彼はソロやクルー名義のミックステープを複数リリースし、北米やヨーロッパをツアーで周り、米トーク番組にてザ・ルーツと共演を果たすまでに至ったが、それはメジャーのバックアップがあったわけでも、YouTubeにアップした1本の動画だけで一躍人気者になったわけでも、オリジナル・ダンスを流行らせたわけでもない。全て実力で成し遂げたことである。しかし、それは彼がひとりで達成した偉業ではなく、プロ・エラという強力な存在があってのこと。『1999』にしても、2013年に発表したミックステープ『Summer Knights』にしても、JディラやドゥームやDJプレミアといった名の売れた才人のトラックと並んで、引けを取らないプロ・エラの才能溢れるトラックメイカー達の良質なビートがジョーイのラップを引き立てている。彼らは90sサウンドを模倣するだけに終わらず、そのスタイルを軸に自分らしさを見出しており、そういった音楽性がただの懐古主義に陥らない彼らのムーヴメントの基盤になっている。
 
新作『B4.DA.$$』でも、カーク・ナイト、リー・バノン、スタティック・セレクタ、チャック・ストレンジャースといったプロ・エラのプロデューサーたちが良い仕事をしており、特にチャック・ストレンジャースは「Escape 120」や「Teach Me」など速めのBPMのトラックでプロデューサーとしての技量を見せている。プロ・エラ・キャンプ外のプロデューサー陣としてはDJプレミアが手がけた「Paper Trail$」、『1999』に収録されていたシングル「Waves」のプロデューサーでもある、フレディー・ジョアキムが制作したジャジーな2曲、Jディラの90年代作であろう未発表トラックにザ・ルーツが彩りを添えた「Like Me」などが収録されており、メロウからダーク、ダンサブルまでサウンドは多彩。
 
しかしアルバムの主役はなんと言ってもジョーイ。畳み掛けるような韻踏みはよりアグレッシヴに、柔軟なフロウはより表現豊かに、コンシャスなリリックは深みを増しており、人としてもアーティストとしても成長したジョーイの素顔がここにある。親友(プロ・エラのラッパー、キャピタル・スティーズ)の死を乗り越える強さを見せた「On & On」、一人っ子のブルースを歌った「O.C.B.」、自身の母へ捧げた「Curry Chicken」など、これまで以上にパーソナルな一面を曝け出した曲も多く、「No. 99」のサビや、レゲエアーティストのクロニックスが参加した「Belly Of The Beast」などでは、自身のカリビアンなルーツ(彼はブルックリン出身だがセントルシア人の母、ジャマイカ人の父の血を引く)を以前よりも前面に出している。アルバムの随所にはウータン・クランやノトーリアスB.I.G.の歌詞の引用を巧みにちりばめており、先人達へ敬意を表することも忘れていない。
 
簡潔に言うと、売れ線を狙ったり、ギミックに頼ることなく、これまでのミックステープで打ち出してきたスタイルを更に磨き上げ、ファンの期待に見事に答えることに成功したアルバムである。Billboard 200では初登場5位を記録し、売上的にも好調。アルバム発売日(1月20日)に20歳になったばかりの彼は『Illmatic』を制作した頃のナズと同年齢であるが、『B4.DA.$$』は『Illmatic』や、ウータン・クランの『Enter The Wu-Tang (36 Chambers)』、ノトーリアスB.I.G.の『Ready To Die』、レイクォンの『Only Built 4 Cuban Linx…』、O.C.の『Word… Life』、ATCQの『People’s Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』、ジェルー・ザ・ダマジャ『The Sun Rises in the East』などといった、1stアルバムにしてニューヨーク・ヒップホップを代表する名盤となったアルバムたちと肩を並べる重要作品として、今後語り継がれて行くべきアルバムだと声を大にして言いたい。

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