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Black Messiah

Artist : D'Angelo and The Vanguard  | Label : RCA  | Release Date : 2014/12/15

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約15年ぶりの3作目。今思えば随分長いカウントダウンにつき合わされたものだ。完成間近などと途中経過は報告されるも一向にリリースされる気配がない……と思いきや、2014年の暮れに突如発表されたディアンジェロ(以下D)の新作。広い意味で“黒い救世主”を謳ったこのアルバムは、再び人種間の緊張を引き起こしたファーガソンの事件などに触発されて緊急発売されたという側面もあったが、本国では10年ぶりのフルステージとなった2012年の〈Essence Music Festival〉で挨拶もなくいつの間にか演奏を始めていたのと似て不意を突かれた感じだ。とにかくDは行動が読めない。件のR&Bフェスでは会場を埋め尽くすブラック・ピープルまでもが“理解不能”といったリアクションを示したほどの異能ぶりを発揮した奇才。いや、鬼才と書くべきか。『Brown Sugar』(95年)と『Voodoo』(2000年)でニュー・クラシック・ソウル〜ネオ・ソウル・ムーヴメントの牽引役となりながらも自身は別の地平に立っていたD。それは今回の新作でも同様だ。
 
当初は『James River』というタイトルでJ・レコーズからリリースが予定されていた本作。今回もリズム隊のキーパーソンとなったクエストラヴが「大袈裟な言い方は避けたいが」と前置きして「スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』に近い」とコメントしていたように、冒頭のスロウ・ファンク“Ain’t That Easy”をはじめ、硬派なメッセージと官能が交錯するアルバムは、サイケデリック期のビートルズやビーチ・ボーイズなどを仄かに匂わせながらブラック・ミュージックの革新的な先達の姿を随所で思い起こさせる。例えば革命家の演説をサンプリングした“1000 Deaths”などはファンカデリックとエレクトリック期のマイルス・デイヴィスを合体させたような破壊的で混沌としたブラック・ロックだ。リリックは、Pファンク一派の女性ケンドラ・フォスター、そして一時期Dらとリンウッド・ローズというユニットを組んだこともあるQ・ティップと共作もしているが、全編を通しての印象は、ソウルクエリアンズのアフロセントリックな作法込みで名盤認定された前作『Voodoo』における自身を演じながら、ポップに丸みを帯びた感じ。カーティス・メイフィールドの“We The People Who Are Darker Than Blue”を引用し、スパニッシュ・ギターをポロポロと鳴らしたメロディアスな“Really Love”など、録音時期も含めて前作との連続性を感じさせる曲も少なくない。
 
2008年に他界したスパンキー・アルフォードを含め、クエストラヴやピノ・パラディーノ、ロイ・ハーグローヴといったソウルトロニックスの残党に、ジェシー・ジョンソンやクリス・デイヴといった近年のツアー・メンバーを加えて進化させたヴァンガードの演奏も前作の面影を残す。ただし、ジミ・ヘンドリックスばりのギターで紫煙をくゆらせるようなD自身のプレイも含め、Dいわくヴァンガードは「ラウドでハードでロック寄り」。今回共同名義にしたのは、ライヴを含めDの復活を支えた彼らとの一体感、バンド感を打ち出したかったからなのだろう。オール・アナログ録音とされる人力バンド・サウンドはアーシーで生々しく、リズムをタメにタメてルーズかつタイトなグルーヴを醸成。ムニャムニャとした猥雑なコーラスを絡めて酩酊感を生み出すDマナーも健在だ。ジェイムズ・ギャドソンによるボディ・パーカッションも話題のアラン・トゥーサン風ファンク“Sugah Daddy”(前作での“Chicken Grease”にも通じる)などを聴くと、Dがヒップホップのアートフォームに基づいたシンガーというかファンカーであることに改めて気づかされる。ギターのジェシー・ジョンソンがザ・タイム出身ということもあってか(?)、社会的事件に触発されたサイケなポップ・ファンク“The Charade”など、これまで以上にプリンス色も濃厚。後半では、ジャジーな感覚が活きた“Betray My Heart”、牧歌的とも言えるカントリー・ブルース調の“The Door”と多彩な表情を見せ、エレキ・シタールを交えて狂おしいほどのファルセットを放つスピリチュアルで甘美な“Another Life”で幕を下ろす。ラストは紛れもなくソウル・シンガーとしてのD。かつて私生活でパートナーだったアンジー・ストーンを含むヴァーティカル・ホールドの95年作『Head First』でクロージング・ナンバーの“Pray”に客演したDの姿を思い出してしまうほどに。
 
リークや近年のライヴ・レパートリーとして知られる曲を含み、期待(もしくは不安)を募らせながら長らく待たれたアルバムということで、出れば世界的な話題作になることが約束されていた点では前二作とは少しだけ異なる。その意味では手放しで絶賛できない部分もあるが、もはやD本人が客観視できるまでになっていたであろう楽曲をエンジニアのラッセル・エレヴァドたちと煮詰めに煮詰めて完成させた本作は、音の鳴りも含めて黒豆の如き艶を放つ。まさに熟成された逸品。音楽的な革新というより、時代やシーンの流れに惑わされずDがDとして戻ってきたこと、そしてアルバムがリリースされたことでリスナーに喜びを与え、Dを慕う音楽家たちに希望を与えたことが何よりの成果だろう。
 

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