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Voyage to Arcturus

Artist : Vakula  | Label : Leleka  | Release Date : 2015/2/20

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初期作品をまとめた『You’ve Never Been to Konotop (Selected Works 2009-2012)』、変名のヴェドミールで発表した『Vedomir』に続くヴァクラの新しいアルバムを聴いて、「え? これがあのヴァクラ?」と思った人も少なくないだろう。ウクライナの彼は、ここ数年来ハウスが盛んなロシア周辺国や東ヨーロッパにおいても、とりわけディープな作品を作るハウス・クリエイターと認識される。中にはレフトフィールドなものやノンビート系のエクスペリメンタル作品もあるが、大枠ではディープ・ハウスやビートダウン、テクノ、もしくはアンビエントの文脈からから大きく外れることはないと思われてきた。しかし、『Voyage to Arcturus』は今までのヴァクラの作品の中では極めて異色だ。というのも、本作はヴァクラ名義のアルバムではあるが、同時に一種のサントラなのだ。題材となるのは、1920年にイギリスの作家デヴィッド・リンゼイが書いたSF小説『アルクトゥールスへの旅』で、それぞれの章立てが全16曲の作品となっている。SF小説といっても幻想文学の色合いが強く、同時に哲学や観念論も内包した書物なのだが、内戦のような混迷状態が続くウクライナにあって、彼がこの小説をなぜ取り上げたのかということも興味深い。
 
音楽的なことに話を戻すと、本作はフュージョンであり、サイケやプログレの要素も強い。もちろん、今までのヴァクラの作品にもジャズやフージョン、またはイタロ・コズミックやアフロ、サイケに至る要素は散見されてきたが、本作ではそれが単なる要素にとどまらず、音楽性の核となって存在している。「New Sensations」は本作の中では比較的はっきりとしたハウス・ビートを用いてはいるが、音楽そのものはスペイシーなラテン・フュージョンといえ、それもアメリカのジャズ・バンドがやったものではなく、ドイツなどヨーロッパの70年代のプログレ・バンドがやったような作品に近い。「Joywind」はオーガニックな要素の強い中南米系サウンドで、そこにジャズ・ファンクやブギーが融合されている。アフロ・ボッサ・ビートの「Maskull’s Keyhole」も同系だが、セクシーな女性ヴォーカルやミステリアスなフルートが絡んだりするところは70年代のイタリア映画のサントラ的。「Oceaxe」もラテン風で中盤からハードなギターが登場し、南米のロックやプログレ・バンドの作品を想起させる。サンタナ風の「The Wombflash Forest」「Sullenbode」なども含め、全体的にラテン色が強いことも本作の特徴だ。そして、最後のラテン・ファンク調の「Muspel」など、意識的に70年代風のサウンドにしている。逆にSFの代名詞といえるエレクトリック・サウンドは、「19 Hours Prior To Arcturus」「Liquid Opal」などに見られるものの全体的には薄目で、それもかなりチープな感じだ。敢えてレトロなテイストを出すことにより、サイケデリックで混沌とした雰囲気を高める意図が感じられる。音楽の方向性としては、ヴァクラの作品というより、むしろウルグアイのインターナショナル・フィール(現在はイビザへ移転)の諸作に近いのではないだろうか。ヴァクラ・ファンにとっては賛否両論別れそうだが、彼の別の側面が見られる意欲作にして実験的作品だ。

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