Fumitake Uchida『Sleeping Forest』

April 08,2013 | Category :  News | Tag :  

異世界へ誘う日常のメロディー

by Danny Masao Winston


(GSCD-7804) ¥2,100 (Tax In)

2013年4月3日(水)

iTunes 限定リリース

 ビジュアル・アートと音楽は切り離せない関係性にある。良質なアルバムには優れたアートワークが付き物であり、PVなどは宣伝効果だけでなく、その楽曲をビジュアライズして、聴覚と視覚の両方でより深く作品を味わうことを可能にする。しかし芸術家と音楽家という二足のわらじを履いた、両方の意味での“アーティスト”の数は、あまり多くはない。多才な表現者はもちろんいるが、アートにも音楽にも同じくらいの情熱を傾け、才能やセンスを磨くアーティストは少ないのではないだろうか。

 Fumitake Uchidaは、日常的に目にする何気ない風景を、シンプルかつ印象的な構図で鮮やかに描き上げるペインター/デザイナーだ。2006年頃から活動を始め、これまで様々な書籍デザインやCD、DVDのパッケージ・デザインを担い、国内外で数々の展覧活動を重ねてきた。物や人の形象、シルエットを大事にした独特な作品に定評のあるFumitake Uchidaだが、そのうち絵だけでなく音も取り入れた自己表現を行うようになった。音楽を始めたきっかけについて、彼はこう話す。「中学生の時にギターを始めてから、大学を卒業する頃までいくつかのバンドに入っていました。それ以降は音楽を聴くことも少なくなりましたが、Art Court Frontier 2010という展覧会でペインティングと曲をセットで展示しました。バイノーラル・マイクで録音した、いくつかの場所の環境音を展示するつもりだったのですが、色々と作っているうちに曲(今回のアルバムに収録されている“Hadakagami”)になりました」。

 そんなFumitake Uchidaが、今年4月にGruntStyleからiTunes限定でアルバムをリリースすることになり、音楽家としてのデビューを果たす。『Sleeping Forest』と題されたこの作品は、彼の絵画作品のように色鮮やかで、様々な“日常”を封じ込めたインストゥルメンタル・アルバムだ。10年ほど前に作っていた曲から、つい最近完成した曲まで幅広く収録されていると、彼は言う。「聴いてくださる方の記憶と楽曲が合成して、1つの作品となれば嬉しいです。眠れる森をイメージした曲(“Sleeping Forest”)をそのままアルバムのタイトルにしました。実は、収録した“Sleeping Forest”の前にもっと静かなバージョンも作っていたんです」。制作に関しては、サンプリングはたまにする程度で、主にギターとソフト・シンセを使っていると話す。「普段の生活や、SoundCloudを流し聴きしている時などに自然とインスピレーションを受けていると思います。曲の雰囲気は季節によく影響されますね」。

 エレクトロニックなシンセ・サウンドやピアノの音色、温かいギターのフレーズに環境音のサンプルが有機的に絡む彼のコラージュのようなサウンド・デザインは、時代、ジャンルといった枠に収まるのを拒む。だがルーツはブラック・ミュージックにあるとFumitake Uchidaは語る。「ブラック・ミュージック全般に影響を受けていると思います。作っている曲とは雰囲気が違うかもしれませんが、ディアンジェロ、プリンス、ヴァン・ハント、トニー・トニー・トニー、マックスウェル、ブライアン・マクナイト、ミュージック・ソウルチャイルド、フォース(Forss)などをよく聴いていました。最近はシゲト、ニコラス・ジャー、フローティング・ポインツ、ティーブス、マウント・キンビーなどが好きです」。アルバムの幕開けを告げるのは、ゆったりとしたメロディーの「Hadakagami」。そしてメランコリックな音色に電子音が心地よい「Mist」や、エレクトロニックなジャズの「Snowy Dream」、ギターのフレーズが耳に残る「I Just Want to Be Me」と続く。その後は清々しいピアノと地を這う重低音にハンドクラップが乱れる「Inside the Rain」、スロウなビートから倍速の4つ打ちリズムへと変貌する「Fog」、“都会”を連想させる雰囲気の「Monday」、哀しげなヴォーカルが心にしみる「My Way」、タイトル通りの情景を思い浮かべてしまう美麗な「Yuki no Shizuka ni Furugotoku」、そして「No Answer」、「Blind Forest」と、Fumitake Uchidaらしいビーツが続き、タイトル曲「Sleeping Forest」で物語が締めくくられる。誰もが聴き覚えのある日常的な生活音や環境音から、正体のわからないノイズの断片まで、多種多様で色彩豊かな“音”が入り乱れ、抽象的で叙情的なメロディーに溶け込む。それは本人のアートのように現実の1コマのようであり、異世界へと旅をしているような感覚でもある。

 自己表現の手法としての音楽とアートの違いについては、彼はこう考える。「共通する部分は多々ありますが、音楽の方がより感覚的だと思います。私が曲を作る時は、音の色や質感を特に重視する傾向があります。アートの場合は感覚で見るのも楽しいですが、コンテクストやメタファーを頭で考えて楽しむ、少し距離を置いた、知識や前提の共有が必要な楽しみ方もあると思います」。

 もちろん、今回のアルバムのアートワークはFumitake Uchida本人によるものだ。黄色の空の下に白い道路が延びる、鮮やかなコントラストのこの作品は、どこかノスタルジックで想像力をかき立てられる。この絵を彼の音楽作品集の表紙にしたことにはこのような理由があった。「小さな頃、私はよく空に物語を映して考えごとをしていました。このアルバムを聴く人が、その人だけが持つ記憶を曲に映してくださって初めて1曲として完成する、と考えたので、空が広くて誰もが見たことがあって、それでいて見たことのない風景の絵を選びました」。

 直観を頼りに音楽を制作するFumitake Uchidaは、無心で曲作りをすると言う。「曲を作る時はトランス状態に近いので、作り始めるといつの間にかできているという感じです。よく自分で“どうやって作ったんやろ”と思い返します。ライブでは段々と盛り上げていくのが好きです。BPM 80から始まって最後には130くらいになっているような」。

 今回のアルバムはインスト曲が中心となったが、今後はヴォーカリストともコラボレーションをしていきたいと彼は語る。「トラックを主に作っているので、いとうせいこうさんや鎮座DOPENESSさんなどとコラボレーションできたら楽しそうだなと思います。歌だと安藤裕子さんや星野源さん、ジェームス・ブレイクやトム・ヨークなど、挙げればたくさんいますね。色々な方にリミックスして頂けたら嬉しいです」


Fumitake Uchida

First Album『Sleeping Forest』

(GSCD-7804) ¥2,100 (Tax In)

2013年4月3日(水)

iTunes 限定リリース

01 Hadakagami

02 Mist

03 Snowy Dream

04 I Just Want To Be Me

05 Inside The Rain

06 Fog

07 Monday

08 My Way

09 Yuki no Shizuka ni Furugotoku

10 No Answer

11 Blind Forest

12 Sleeping Forest

Produced by Fumitake Uchida

Fumitake Uchida


1981年生まれ。京都造形芸術大学卒業。’08年、MoMAが開催する”DESTINATION JAPAN”に作品4点が選定され、世界的なクリエイター年鑑 『LE BOOK』のニューヨーク、パリ、ロンドン版の全ての装画を担当する。graf media gm「tenants」展(’06年)、アートコートギャラリー「Art Court Frontier 2010 #8」(’10年)に参加するなど、国内外で数々の展覧活動を展開。MISIA with 星空のオーケストラ2010「星空のライヴ V Just Ballae」など音楽DVDやCDのジャケットを手がけ、宮本亜門氏の演出ミュージカル「テイクフライト」にて舞台全面に投影される絵の制作を担当するなど、幅広い分野で活躍を続けている。’11年からは音を用いての表現も展開している。

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