METICULOUS TOUCH

March 07,2014 | Category :  News | Tag :  

 Wax Poetics は本物の音楽と、それを聴くための音楽環境(機材)に関しても深く探求しようと考えている。いい音を聴くために、まずは日本を代表するハンドメイド・スピーカー職人の第一人者である早瀬敏弘氏に話を伺いにいった。音はどういう流れで耳まで届くのか。今のスピーカーやイヤホンについて、早瀬氏はどう考えているのか。「音」というキーワードをもとに、社会情勢や人間の本質なども織り交ぜる氏の話は、とても為になり、そして深い。今までお会いした先人の中で、人間の本質をここまで理解している人はいないと感じた。編集長:舟津政志

 
METICULOUS TOUCH

Toshihiro Hayase

細部までこだわる指先 -ハンドメイドへの想い-

by Danny Masao Winston 
photos by Suzu (fresco)

 物理学において、音は「疎密波」(縦波)だと定義されている。そのような“当たり前”となった定説に疑問を抱くことなく、数多くの技術者達が音波のこの性質を応用したスピーカーを開発してきた。ところが、この常識に囚われず、もっと違う方法で音の潜在能力を発揮する方法があるのではないか、と考えた男が居た。寺垣プレーヤーと寺垣スピーカーの発案者、寺垣武である。

 大正13年(1924年)に生まれた寺垣武は、16歳の時に自身が発明した、爆撃機から投下される爆弾の命中精度を上げる装置が取り上げられ、「少年エヂソン」と読売新聞に報道された。その後、太平洋戦争中に兵器の開発に携わり、戦後、フリーの機械技術者として様々な機械や装置の開発を行っていった。そして、昭和54年(1979年)ごろからオーディオの開発を始める。これまでに無い発想から産み出された寺垣武のアナログ・プレーヤーとスピーカーは、音の再現度を極限まで高めており、国内外から高い評価を受け続けている。現在は株式会社Teragaki-Laboの会長をつとめ、寺垣スピーカーの開発、販売を行っている。氏の技術、発想に感銘を受け、スピーカーの製作技術を学び、現在寺垣イズムを継承しているスピーカー職人、早瀬敏弘に話を伺った。

早瀬さんは、大学在学時音楽を専攻し、 高校の音楽教師を経て、クラシックの音楽事務所のマネージャーを務めたそうですが、音楽に溢れた経歴ですね。


 子供のときに観た『ビルマの竪琴』と言う映画の影響が大きいです。映画の中で、ビルマ戦線で日本軍がイギリス軍に囲まれてしまうシーンがあります。そこで兵士たちは、日ごろから歌っていた「埴生の宿」を歌いながら急いで戦闘準備をし、突撃体制に入ります。が、何とイギリス軍からも歌声があがります。考えてみれば「埴生の宿」は、もともとイギリスの歌なんです。そして、兵士達は戦意を失い、敵同士歌を歌いあうという場面があったんです。私は泣いていたそうです。潜在的な動機かもしれませんね

早瀬さんは、スピーカーのパーツを1つ1つ手作りで作っています。ハンドメイドのこだわりはどこから来るのでしょうか?

 不思議なもので、自分の手で作り上げたスピーカーに不平を言われてるような気がして、つい手をかけてしまいます。これは、実際に作ってみないと解らないことかと思います。一挙手一投足、細かく作っていく中で、離れられない何かが生まれます。多様な音楽を流しながら、少しずつ調整していきま
すでしょう?何かを貼付けたり、削ったり、塗ったりしながら、延々と悩んで微調整を加えていくと、突然良い音が鳴る瞬間があるんです。自分でも理由は解ら
ないんです。定まった分量の何かをつけるとか、定まった分量の何かを塗るとかではなくて、1台、1台違うので。毎回、死にものぐるいになって作っています。量産しないのかと良く言われるのですが、それは、動機が不純だからです。通常、量産化は金儲けのために行われます。以下に安く売って他の会社よりシェア
を握るか、が動機になっているので。量産するとしたら、100人ぐらい雇って、100人が心を込めて作っていく、そういう風にやりたいですね。



TERRA-SP3000。TERRAスピーカーは、独自設計の
放音パネルにより
従来のスピーカーとはまったく違う音場を作り出す

以前、民放テレビの「職のプライド」でも取り上げられた


音という情報にどのような想いがあるのですか?


 子供の頃、近くの山に独りで登って、熊笹が風にざわめく音だとか、竹がきしみあう音、鳥や遠くに聞こえる家畜の声を聞いて、大声で「ヤッホー」と山彦を楽しんでいました。福島の田舎です。そういう経験から音に興味を持つようになりました。人の声でも、例えば「おはよう」という言葉だけでも、そのちょっとした言い方の違いで伝わるものがあります。単純な火の用心の拍子木の音からオーケストラまで、共通に介在する生命感に惹かれているのかもしれません。

寺垣スピーカーの製作を手掛ける事になったいきさつをお教えください。


 今から8年前に寺垣先生にお会いし、先生が開発されたレコード・プレーヤーとスピーカーを聴かせてもらい、流れ出た音楽に驚愕しました。私がそれまでコンサートホールで聴いてきた生演奏そのものの音でした。そして後継者がいないことを知り、誰かが承継すべき価値があると感じて、その場で「私も造ってみたいのですが・・・」と許可を頂き、試作するようになりました。マネージャーの仕事はそっちのけで、本当に朝から晩まで製作に夢中でしたね。


早瀬さんから見て、寺垣さんはどういった方ですか?


 寺垣先生は天真爛漫で、子供のように純粋に物事に関心を持って見つめる方ですね。観察力と好奇心に溢れています。このスピーカーの開発も、先生は音響に関してまったく素人なのにこういう新しい方法を編み出したんです。それはなぜかと言えば、音は粗密波でできているという定説に疑問符をくっつけて、始めから考え直すことをしたからです。「原点に戻って考え直せ」というのが寺垣先生の口癖です。そして「自然を正確に認識しなさい」とも言っておりました。簡単に考えて納得してしまうのではなくて、とことん追求してみること。そうしたら、原理が見えて来る。物事の本質が解れば別の道が見えて来る、とおっしゃっていました。

レコード情報を可能な限り正確に読み取ることを追求した寺垣プレーヤー

寺垣さんがオーディオ機器の開発を始めた理由についてはご存知ですか?

 寺垣先生はある雑誌で、「レコードの溝をカッティングする際、何百ワットものエネルギーを使う」と書いてあるのを読み、驚かれたそうです。機械を知っている人なので、0.1ミリ程度の溝を刻むには数十ワット程度で十分だと解っていました。そこで先生は、その小さい溝に膨大な情報が刻まれているのではないか、そして従来のプレーヤーではそのほんの一部の音しか拾っていないのではないか、とこう考えた訳です。レコードをカッティングする機械と同じ精度のマシンで読み取らないと音は全て再現できないと考えて、それを実現するプレーヤーの開発を始めたらしいです。

その後、寺垣さんはスピーカーの開発にも着手するんですね。

 納得の行くプレーヤーが出来て、今度は良い音が出るスピーカーが無いと先生は感じたんです。通常のスピーカーはゴムで囲っているので、ゴムの音が出てしまいます。そして、箱の中に入っているので、箱鳴りもします。寺垣先生のスピーカーは純粋な振動板の音だけなので、本当の音に近い音が出るんです。弦楽器と同じ原理で音が鳴ります。記録されている音が全て明確になるので、普通のスピーカーで聞くと何となく上手く聞こえてしまう演奏も、寺垣スピーカーで聞くとピッチの狂いなど全部解ってしまいますね。

オルゴールに用紙をあてて、寺垣スピーカーの原理を説明する。紙から大音量の音が響き渡る

寺垣スピーカーは「波動スピーカー」や、「物質波スピーカー」とも言われています。その原理は、寺垣さんがオルゴールに下敷きをあて、湾曲させると音が増幅するという現象を発見したことから来ているとのことですが、これはどういった原理なのでしょうか?

 音の波は“粗密波”だと考えられています。つまり、密度の濃くなった所と薄くなった所がある波で、これが空気を伝って鼓膜に届きます。しかし、寺垣先生は音の伝わり方はそれだけでは無いと考えたんです。音というのは机の中でも、鉄道の線路でも、海の中でも伝わる。固体の中に、粗密波のような“波”が起きているとは考えにくい。そこで、先生は隣り合う分子が音のエネルギーを伝えることで、音が伝わるのではないか、と考えたのです。それを、先生は「波動」、あるいは「物質波」という言葉で表したんです。人間は音を耳だけで聴いているのではなく、骨伝導や皮膚伝導など、身体のあらゆる感覚から音が入って来て、鼓膜が処理している。だから、イヤホンなどで音楽を聴くのは、音楽のちょっとした部分を楽しんでいるだけだと、音楽に浸らないと本当の良さは解らないと、良くおっしゃってました。

アナログプレーヤー(ターンテーブル)やレコードの音は、CDやMP3に比べて、なぜあんなにもあたたかく、柔らかい音なのでしょうか?


 開発当初の技術者の動機が純粋だったと思います。利便性の追求はともかく、今のオーディオ業界はコスト削減、金儲けを優先して、完全に利益追求のために量産しています。開発製造販売会社が音楽の価値を損なうことを畏れなくなってしまったのかと思います。純粋に生音に近づけようという発想はもうまったく無い。それでも人間の感性を騙せないということでしょうね。

デジタル社会の恐ろしさをまだ人間は気づいていない、と先生はおっしゃってました。デジタルで一番恐ろしいのは、選挙を例にあげると、51票対49票で当選と落選が決まりますね。ところが、当選した人は49票を切り捨てて、忘れる。1か0のどちらしかない、これがデジタルなんです。しかし、本当は1と0の間に無限の数字があるはず。それを忘れた政治家は失格だ、と言ってましたね。そういう感覚で物事を見つめる人は、そのうち人間も役に立たないとみなせば切り捨ててしまうんですよ。私はどんな人にも価値があると思います。

音楽愛好家や、今の若者に向けて、音楽はこう聴いて欲しいなどのアドバイスやメッセージはありますか?

 「音楽を楽しむ」環境は、「いつでもどこでも」ではないことに気がついてほしいと思います。体感して欲しい。耳で聴くのではなくて、身体で感じるもの、心で感じるものだと思います。音楽の場、空気を感じることができる環境を作っていかないといけないですね。音楽の本質は生演奏。生演奏が聴けない環境では、せめて良い音で聴いて欲しいですね。音楽に託された、自然や人の心から流れたメッセージを大切にして、正面からじっくりと受け止め、また問い返してみてはいかがでしょうか。

Share this Article
Facebookでシェア
Twitterでシェア
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>