ディスク・レビュー:ハイエイタス・カイヨーテ『Choose Your Weapon』

June 30,2015 | Category :  Release | Tag :  Choose Your Weapon,

『チューズ・ユア・ウェポン』 
Hiatus Kaiyote
Choose Your Weapon (Flying Buddah)

 
デビュー時はほとんど無名のバンドで、2012年のデビュー・アルバム『Tawk Tomahawk』も自主制作なので、プロモーションなどはほとんどなかったハイエイタス・カイヨーテ。しかし、作品の内容の素晴らしさはジャイルス・ピーターソンなど影響力のあるDJやピッチフォークなどのネット・メディアを通じ、ジワジワと広まった。その才能に惚れ込んだQティップはコラボを申し込み、「Nakamarra」にラップを乗せた新ヴァージョンを発表。そして、2013年には『Tawk Tomahawk』がアメリカでもリリースされた。「Nakamarra」は2013年のグラミー賞R&Bベスト・パフォーマンス部門にもノミネートされ、一躍その名を世界に轟かせるというのがこれまでの歩みだ。オーストラリアのメルボルン出身の4人組で、紅一点のヴォーカリスト兼ギタリストのナイ・パームは、その個性的なルックスもあってグループのフロント・アクトとして活躍する。Qティップも彼女のユニークな歌声に惹かれた口だが、そうしたアーティストは多く、テイラー・マクファーリンもアルバム『Early Riser』に招いた。
 
「Nakamarra」は一聴ではリンダ・ルイスやミニー・リパートンを思わせる作品で、その印象からオーガニックなネオ・ソウル・バンドととらえられがちなハイエイタス・カイヨーテ。しかし、実際はストレートなソウル~R&Bグループではない。楽曲は転調やリズム・チェンジの多い複雑なもので、むしろジャズやフュージョンの色彩が強い。曲によってポスト・ロック的な部分もあり、彼ら自身はオペラやフラメンコからの影響も挙げている。タイプは異なるが、Pファンクやフランク・ザッパにオペラ的な要素があるのと同じことだろう。そうしたジャム・バンド・サウンドにエレクトロニカの要素も持ち込み、ダブステップの影響も感じさせる実験的なバンドなのだ。「Nakamarra」も注意深く聴くと、エレピ・フレーズなどに一般的なR&Bにはない特異なセンスが感じられる。そうしたエキセントリックさは新作『Choose Your Weapon』で全開となっている。
 
Pファンクばりの奇妙なタイトルを持つ「Shaolin Monk Motherfunk」は、中間から土着性とコズミックさを湛えたスペース・オペラ・ファンクへ展開する。「By Fire」もオペラ的な着想を持ち、楽曲にはジョージ・デュークやスタンリー・クラークから、サンダーキャットなどのフュージョン・サウンドに通じるところがある。「Molasses」は「Nakamarra」のようにオーガニック・ソウル的な味わいを持つが、中間以降はどんどんフリーフォームな展開を見せる意欲作。「Borderline With My Atoms」はまるで物語を紡ぐように変化し、ナイの歌を含めてドラマティックな構成を持つ。ナイの歌の素晴らしさは「Building A Ladder」にも表れている。こうした複雑な構成の楽曲を歌いこなしてしまうのは、一般であればクラシックの声楽にも熟練したシンガーでないとできないことで、やや調子外れな面を見せるのも実は計算されたことなのではと思わせる。「Breathing Underwater」は小刻みに変化するリズムを持ち、ドラマーのスキルの高さを見せる。「Swamp Thing」のズレたファンク・ビートはクリス・デイヴのようなジャズ・ドラマーのそれに近く、「Fingerprints」はロバート・グラスパー・エクスペリメントがより実験的になったようなサウンド。そして、「Jekyll」での中間以降の民族音楽とプログレが融合したような展開は、ザッパのように常人では考えもつかないようなアイデアだ。「Laputa」や「The Lung」はロサンゼルスのビート・シーンに通じるサウンドで、「Prince Minkid」や「Atari」はフライング・ロータスのアルバムに入っていてもおかしくない。今後はそうしたLA人脈とのコラボもあるのでは、そんなことを思わせるアルバムだ。
 
レビュー:小川 充
 

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